結論としては、優良企業における健全経営の肝であるキャッシュフロー至上主義は、それはそれで最新の経営学の理論に合致しますが、実は大きな落とし穴があります。

日経ビジネスWeb版には「ベンチャー企業の生存率は、創業から5年後には15.0%、10年後6.3%、20年後0.3%と非常に厳しい現状」との記載があり、いかに零細企業の生き残りがいかに過酷で厳しいかということです。

このように零細企業のほとんどが破産や廃業をしており、経営における財務を軽視しているケースが多々見受けられ、逆にこのような状況で生き残っている零細企業は、健全経営を行っている優良企業であるといえます。

健全経営における肝は、B/S(貸借対照表)における徹底したキャッシュフロー至上主義であり、それを踏まえてのP/L(損益計算書)における利益向上に取り組み、常に利益率を意識した売上向上に取り組んでおり、非常に厳しい生存率のなかで生き残っている零細企業は、このような健全経営を徹底しています。

キャッシュフロー至上主義における肝は、トヨタが考案したジャストインタイムであり、ジャストインタイムを実現できれば、確実にキャッシュフローを改善することができ、ジャストインタイムの肝は、在庫をなくすことであり、「在庫は悪」という思想の徹底です。

2020年までは、日本国内における部材供給の環境が非常に良好であったため、国内企業のほとんどがジャストインタイムを実現できる非常に幸運な時代でもあったわけで、ジャストインタイムさえすれば、どのような企業も生き残れる状態だったわけです。

しかし、突如として2021年から世界的な半導体不足とルネサス工場火災によるルネサス製半導体の供給停止により、半導体が入手できない事態が起き、いくらお金を出しても半導体が手に入らない事態となりました。

そうすると、零細企業にとっての命綱である貴重な貴重な受注があったとしても、ジャストインタイムを徹底しているほど、部品不足のために受注に対応できず、苦境に陥るようになりました。

2021年以降、ジャストインタイムを徹底している優良企業ほど苦境になるというパラダイムシフトが起きました。

2024年に入ってからは、世界的な半導体不足は緩和され、とりあえず、お金さえ出せば半導体を入手することができますが、依然としてルネサス半導体の入手難は継続しています。

これまで、ジャストインタイムを実践してきた優良企業のなかでも、2021年の半導体不足による苦境をきっかけに、しなやかで柔軟性のある優れた経営陣は、これまでのジャストインタイム至上主義を反省して、部品入手の安全保証に配慮した経営に転換した企業は、徐々に立ち直りつつあります。

しかし、これまでのジャストインタイムによる成功体験に固執する企業は、いくら受注があっても対応できず、破産・廃業一直線となっています。

実は、2000年頃から、ずっとジャストインタイム至上主義に懐疑的で一貫して警鐘を鳴らしてきましたが、誰も聞く耳を持ちませんでした。

しかし、2021年からの半導体不足による打撃をきっかけにジャストインタイムを見直す企業もでてきました。
やはり、人も企業も一度痛い目に遭ってみないとわからないということでしょうか。

2021年以降からは、ジャストインタイム至上主義から、キャッシュフロー改善と部品安全保障を絶妙にバランスさせる経営手腕が要求されるようになったわけで、これまで健全経営の優良企業であったジャストインタイム至上主義にあくまで固執する零細企業は、破産や廃業していくしかないと思われます。