日本の半導体がかつて世界最強でしたが、最先端は欧米、一般品は中国や東南アジア、製造は台湾に押されて、2000年に入ってから凋落していき、現在に至ります。

しかし、電力用半導体に限っては、国産半導体メーカーが世界最強で、凋落を免れ、なんとか踏みとどまっています。

半導体の営業をしているかたに話を聞いたのですが、どの企業も電力用半導体はとにかく ON抵抗 の低さを要求されるようです。

特に電力用半導体は、OFF時は絶縁体のような絶縁抵抗の高さ、ON時は導体のような導体抵抗の低さが要求されますが、半導体は絶縁体と導体の中間であるので簡単には要求とおりには実現が困難です。

絶縁体のような絶縁抵抗の高さは、シリコンカーバイドの採用で実現でき、導体のような導体抵抗の低さは半導体の構造の工夫で実現を目指しています。

電力用半導体は従来型であるプレーナ型と実用化が困難なトレンチ型があります。
詳しくが右記のリンクプレーナ型とトレンチ型を参照ください。

ON抵抗の低い電力用半導体のニーズは高いため、どのメーカも必死に実用化を目指しましたが、各メーカの技報を見ても挫折の連続でした。

そのなかでロームがトレンチ型のSiCパワーMOSの実用化に成功し、ON抵抗の低さで世界トップに躍進し、現在に至り、当分の間、その覇権は揺るがないでしょう。

ただし、私は、トレンチ型の実用化を成功させたロームの強みが、将来到来するであろうパラダイムシフトで弱みになって、一気に凋落するのではないかと危惧しています。

そうなると、日本の半導体が完全に終了してしまいます。

現状の電力用半導体は、ON抵抗の低さで優劣が決しますが、パラダイムシフト後は、寄生抵抗Cossの低さが優劣を決するようになると思われます。

現状、1kW超、AC200V以上の高電圧、大容量のスイッチング電源回路で使われる電力用半導体のスイッチング周波数は、数kHzが主流となっており、ON抵抗の低さが電源回路の損失低減に直結しています。

そのため、ON抵抗の低い電力用半導体に高いニーズがあります。

実はスイッチング周波数を上げるほど、周波数に反比例して電源回路を小型化することができます。

なぜ、現状の高圧大容量のスイッチング電源の周波数を上げようとしないかというと、周波数を上げるとこれまでの貴重な貴重なノウハウや実績が通用しなくなるからです。

更に、『周波数×電力』のある値を境にして、その上下で全く違う世界になり、境より下の世界では、オームの法則、キルヒホッフの法則が通用する世界ですが、境より上の世界では、それらが通用せず、高周波電波の解析手法が必要で、何をするにしてもインピーダンスマッチングが必要な世界になります。

微弱な電力を扱う携帯や無線LANでは、概ねGHz帯で境より上になりますが、大電力では、電力によりますが10〜100kHz程度の周波数で境より上になり、オームの法則やキルヒホッフの法則が通用しない世界になります。

スイッチング電源でも小さい電力では容易にスイッチング周波数を上げることができますが、電力が大きくなるとスイッチング周波数を上げることができなくなります。

私は以前に高周波の電波送信機と受信機を設計した経験があるため、境より上の世界にも進出できたため、AC440V入力の4kW級の高圧大容量電源で最大500kHzのスイッチング周波数の電源を制作しました。

4kW級ともなると100kHz以上の周波数では、電力用半導体のON抵抗の低さよりも、とにかく寄生容量Cossの低さが必要となります。

従来のプレーナ型は、ON抵抗の低さに優位性はないですが、寄生容量Cossの低さに優位があります。

現在、ロームが覇権を握っているトレンチ型は、ON抵抗の低さに優位がありますが、寄生容量Cossの低さに難があり、実際に動作させてみた場合、周波数が上がるほど、トレンチ型の電力用半導体は使い物になりませんでした。

海外では、Woflspeed社のSiCパワーMOSは、トレンチ型に見向きもせず、あくまでプレーナ型でON抵抗を下げる不断の努力を積み重ねていました。

そのため、100kHz超、特に500kHzのスイッチング周波数となるとWoflspeed社のプレーナ型しか選択肢がありませんし、トレンチ型の採用などは論外でした。

現在でこそ、ローム社をはじめとするトレンチ型国産半導体は、我が世の春を謳歌していますが、スイッチング周波数向上によるパラダイムシフトが起こると、日本半導体の最後の砦が陥落し、日本における半導体メーカが壊滅すると危惧されるわけです。(半導体装置メーカは別)