平滑回路の設計について
入力リップル電圧の目安と設計の考え方
- 一般的な許容範囲:ピーク・ツー・ピーク(Vp-p)で直流入力電圧の10%〜20%以内に抑えるのが標準的です。
- 低めに設定する場合(5%以下など):
- メリット:コンバータICの動作が安定し、トランスやスイッチング素子の効率が向上しやすい。
- デメリット:大容量の平滑電解コンデンサが必要になり、部品の体格が大きくなる。
- 高めに設定する場合(20%以上など):
- メリット:コンデンサ容量を小さくでき、スペースやコストを削減できる。
- デメリット:最低入力電圧(ホールドアップタイム終了間際など)が低下しやすく、コンデンサのリップル電流耐量や発熱が厳しくなる。
リップル電圧の計算式
平滑コンデンサを流れる放電時間と電流から、リップル電圧(ΔV)を求めます。
負荷電流を I(または消費電力を P から換算した電流 (I = )[A]、コンデンサ容量をC[F]、周波数をf[Hz]とすると、全波整流におけるリップル電圧の近似式は以下のようになります。
コンデンサ容量を算出するための近似式は以下のようになります。
商用周波数は低い方で計算するため50[Hz]とし、電流は最大負荷電流とし、入力Vp-pは下限で算出します。
単相・全波整流 / 平滑回路の設計例:AC440V(396〜484V)/6W級
入力Vp-pの下限は以下で算出します。
Vp-p = Vin × = 396[V] × = 560[V]
最大負荷電流は、以下で算出します。
I = = 0.0107[A] = 10.7[mA]
リップル電圧を5%とすると以下のようになります。
ΔV = Vp-p × 0.05 = 560[V] × 0.05 = 28[V]
平滑回路のコンデンサ容量の下限は以下のように算出します。
C ≧ = 0.000003821[F] = 3.821[μF]
平滑回路と出力電圧のシュミレーション結果は以下のとおりです。

コンデンサの直列接続について
直列接続が必要になるケース
原則としてコンデンサの並列接続は問題ないですが、耐圧を高めるための直列接続は避けなければならず、なるべく耐圧の高いコンデンサを採用するようにします。
電源回路における平滑回路でのコンデンサは大容量が必要とされて、かつ、扱う電圧が高い場合は、必要とする高耐圧で大容量のコンデンサは存在しない、または、あったとしての高コストとなります。
電解コンデンサの漏れ電流
そのような場合、コンデンサの直列接続が必要となりますが、特に電解アルミコンデンサの場合、漏れ電流があるため、単純に直列した場合に電圧が均等にかからず、耐圧オーバーでコンデンサが破損する可能性があります。
例えば、ニチコン製の高耐圧電解コンデンサの漏れ電流は以下のとおりです。

漏れ電流は記載値以下となっているため、設計では0〜記載値の範囲で設計しなければなりません。
大量生産における漏れ電流対策のためのバランス抵抗
直列接続の電解コンデンサにおける漏れ電流の対策として並列にバランス抵抗を接続することです。
バランス抵抗は、最大入力電圧の半分と漏れ電流よる十分に大きい電流、例えば10倍で設計します。
R =
例えば、最大入力電圧を684.5[V]の場合、個別コンデンサにかかる電圧は半分のため0.5を乗算し、コンデンサ容量を3.821[μF]の倍である7.642[μF]とすると以下の上限抵抗値となります。
= 167620[Ω] = 167.62[kΩ]
バランス抵抗で発熱する電力は以下のとおりです。
P = = 0.7[W]
以上がバランス抵抗の理論値ですが、実用上、あまりにバランス抵抗で浪費する電力が多いため、実際には数メガΩとなっているケースがあります。
本質的には2つの直列コンデンサにおける漏れ電流の差分より十分に大きい電流がバランス抵抗に流れればいいわけです。
中ロット・少量生産における漏れ電流対策のための並列抵抗
中ロット生産では購入した電解コンデンサの漏れ電流を下記の回路で全数実測します。

最初だけ充電電流が流れますが、コンデンサの充電が完了した後に一定の微量な電流が流れ続けますので、それが漏れ電流の実測値となります。
全数の漏れ電流値の最大値と最小値の差分でバランス抵抗の設計をし、漏れ電流の値が近いものをペアにしてストックしておき、実装時にペアの電解コンデンサを使います。
少量生産の場合は、ペアの電解コンデンサの漏れ電流差でバランス抵抗の値を決定します。
例えば、最大入力電圧を684.5[V]、ペアの電解コンデンサの漏れ電流差を1[μA]とすると
R = 34255000 = 34.255[MΩ]
バランス抵抗で発熱する電力は以下のとおりです。
P = = 0.00342[W] = 3.42[mW]
スイッチングノイズ除去・EMC対策
基本回路構成
電源回路では、高周波スイッチング回路から発生する強力な高周波ノイズを外部の電源ラインに対して効率的に遮断するためにLC3次フィルタが使われます。
LC3次フィルタとは、以下のようにコイル(L)とコンデンサ(C)の受動素子を合計3個組み合わせて構成された、傾き -60dB/dec(周波数が10倍になると信号が1/1000に減衰)の急峻な減衰特性を持つ高次パッシブフィルタです。

電気的メリットとデメリット
メリット
- 低損失・大電流対応: 抵抗(R)を含まないため電力をほとんど消費せず、電源ラインや高電力のRF(高周波)信号にも使えます。
- 急峻な減衰特性: 周波数が10倍になると信号の強さが1/1000(-60dB)になります。
デメリット
- インピーダンス整合が必要: 前後のインピーダンス(信号源抵抗 () と負荷抵抗 ()が設計値とずれると、特性が大幅に暴れたり(ピークの発生)、減衰しなくなったりします。
- 部品の大型化とコスト: インダクタ(コイル)を2個、あるいはコンデンサを2個使うため、1次・2次回路に比べて基板スペースとコストが増します。
LC3次フィルタの設計
理想的なLC回路の共振周波数やπ型フィルタの遮断周波数は、一般に以下の式で表されます。
電源回路の平滑回路で使う場合、コンデンサ容量は決定済のため、インダクタの定格電流からインダクタンス値を決定します。
例えば、コンデンサ容量3.3[μF]、平滑回路の最大電流10[mA]、インダクタパッケージを10mm角5mm高のSRR1005とします。

最大インダクタンスであっても定格電流値が180[mA]であるため、どれでもいいですが、内部抵抗値による発熱も考慮し、SRR1005-102Kとすると、インダクタンス1[mH]、定格電流300[mA]、内部抵抗3.2[Ω]となります。
P = 0.00032[W] = 320[μW]
発熱は上記のとおり320[μW]であるため、問題ありません。
このπ型フィルタの遮断周波数は以下の式で
= 2900 = 2.9[kHz]
となります。
遮断周波数からスイッチング回路の周波数が10倍以上離れていれば問題ないですが、そうでなければ、インダクタ値を大きくしたり、パッケージの一回り大きいものにして、遮断周波数を下げます。
また、電波暗室での測定結果により更にノイズレベルを抑えたい場合もパッケージの一回り大きいものにして、遮断周波数を下げます。


